【ネットワーク自動化】第1回 : なぜ必要?どんな技術がある?
導入
ネットワークインフラの複雑化が進む現代において、従来の手動による運用管理は限界を迎えつつあります。設定変更に時間がかかり、ヒューマンエラーによる障害リスクも無視できません。こうした課題を解決する鍵となるのが「ネットワーク自動化」です。
ネットワーク自動化とは、スクリプトや専用ツールを用いて、ネットワーク機器の設定、監視、管理といった運用タスクを自動化する取り組みを指します。
ここでは、ネットワーク自動化についてこれまで調べてきたことを、3回にわたってまとめようと思います。
第1回となる今回は、まず「なぜ今ネットワーク自動化が必要なのか?」その理由とメリットを深掘りし、自動化の段階的なアプローチ、そして自動化を実現するための主要な技術要素(Ansible, Python, APIなど)の概要をご紹介します。
本文
1. なぜ今、ネットワーク自動化なのか?
ネットワーク自動化が急速に普及している背景には、いくつかの切実な理由があります。皆さんの現場でも、思い当たる節があるのではないでしょうか?
- 運用負荷の増大と複雑化への対応: クラウド連携、仮想化、セキュリティ強化など、ネットワークに求められる要件は日々高度化・複雑化しています。管理対象デバイスが増えれば増えるほど、手作業での設定や管理は現実的ではなくなり、運用チームの負担は増すばかりです。深夜や休日の緊急対応も、自動化によって削減できる可能性があります。
- 設定ミス・ヒューマンエラーの削減: 「似たような設定を何十台も繰り返す」「複雑な手順のコマンドを投入する」といった手作業には、タイプミスや手順の誤りなど、ヒューマンエラーのリスクが常に伴います。たった一つのミスが、大規模なネットワーク障害に繋がることも少なくありません。自動化によって、事前に定義・検証された手順通りに一貫した設定を適用でき、障害リスクを大幅に低減できます。
- 迅速なサービス展開と変更への追従: ビジネスのスピードが加速する中、新しいサービスの展開やアプリケーションの要求に応じて、ネットワーク構成を迅速に変更する必要性が高まっています。手作業では数時間~数日かかっていたプロビジョニングや設定変更も、自動化されていれば数分~数十分で完了させることが可能です。これにより、ビジネスチャンスを逃さず、競争優位性を確保することに繋がります。
- セキュリティポリシー適用の一貫性確保: ファイアウォールルール、アクセスリスト、脆弱性対策パッチの適用など、セキュリティポリシーを全てのデバイスに漏れなく、かつ一貫して適用することは非常に重要です。自動化ツールを使えば、定期的なコンプライアンスチェックや、ポリシー違反の自動修正なども効率的に実施できます。
- コスト削減: 自動化による作業時間の短縮は、直接的な人件費の削減効果があります。それだけでなく、ヒューマンエラーによる障害復旧コストや、サービス提供遅延による機会損失といった間接的なコスト削減にも大きく貢献します。
これらの理由から、ネットワーク自動化は単なる「効率化」の手段ではなく、現代のネットワーク運用に不可欠な「戦略」となりつつあるのです。
2. ネットワーク自動化のレベルとアプローチ
ネットワーク自動化は、いきなり全てを自動化するのではなく、段階的に進めていくのが一般的です。ここでは、自動化の成熟度をいくつかのレベルに分けて考えてみましょう。

- レベル0: 手動運用: 全ての作業をコンソール接続やGUIツールを使って、エンジニアが手動で行う段階。小規模な環境ならまだしも、規模が大きくなると限界が見えてきます。
- レベル1: スクリプトによる単純作業の自動化: シェルスクリプトや簡単なPythonスクリプトなどを使って、情報収集(
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を全台から取得するなど)や、定型的な設定変更といった、特定の単純作業を自動化します。いわゆる「CLIスクレイピング」(CLIの出力結果をパースして利用する手法)もこの段階に含まれますが、OSバージョンアップなどで出力形式が変わるとスクリプトが動かなくなるという脆さも抱えています。しかし、自動化の第一歩としては有効なアプローチです。 - レベル2: 構成管理ツールによる自動化: Ansible、SaltStack、Chef、Puppetといった「構成管理ツール」を導入する段階です。これらのツールは、ネットワーク機器のあるべき「状態」をコード(YAMLファイルなど)で宣言的に記述し、ツールがその状態を実現するように動作します。冪等性(何回実行しても同じ結果になる性質)が担保されやすく、複数デバイスへの一貫した設定適用や管理に適しています。多くの組織がまず目指すのがこのレベルです。
- レベル3: API連携とプログラマビリティ活用: NETCONF/YANGやRESTCONFといった標準化されたAPI、あるいはベンダー独自のAPIを活用し、より高度で柔軟な自動化を実現します。機器とのやり取りが構造化されたデータ(XMLやJSON)で行われるため、CLIスクレイピングよりも安定性・信頼性が格段に向上します。ネットワークの状態をリアルタイムに収集する「ストリーミングテレメトリ」(gNMIなど)もこの段階で活用され始めます。
- レベル4: Intent-Based Networking (IBN) と自律運用: ビジネス上の要求や目的(インテント)を定義するだけで、ネットワーク全体が自律的にその目的を達成するように動作する、自動化の最終形とも言える段階です。AI/ML(機械学習)技術なども活用され、障害の予兆検知、自己修復、自己最適化といった高度な機能が実現されます。
多くの現場では、まずレベル1やレベル2からスモールスタートし、成功体験を積み重ねながら、徐々に自動化の範囲を広げ、レベルを高めていくというアプローチが現実的でしょう。
3. 主要な自動化技術要素 (概要)
ネットワーク自動化を実現するためには、様々なツールや技術が利用されます。ここでは、特に重要となる要素の概要を掴んでおきましょう。(詳細は次回以降で解説します)
- 構成管理ツール:
- Ansible: 現在、ネットワーク自動化の分野で最も広く使われているツールの一つです。エージェントレス(管理対象にソフト導入不要)で導入しやすく、YAMLというシンプルな形式で自動化の手順(Playbook)を記述できます。ネットワーク機器向けのモジュール(部品)が豊富に用意されているのが大きな強みです。
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- SaltStack, Chef, Puppetなど: もともとはサーバー構成管理で広く使われてきたツール群です。それぞれアーキテクチャや特徴が異なりますが、ネットワーク機器の管理にも対応している場合があります。
- Ansible: 現在、ネットワーク自動化の分野で最も広く使われているツールの一つです。エージェントレス(管理対象にソフト導入不要)で導入しやすく、YAMLというシンプルな形式で自動化の手順(Playbook)を記述できます。ネットワーク機器向けのモジュール(部品)が豊富に用意されているのが大きな強みです。
- プログラミング言語:
- Python: ネットワーク自動化におけるデファクトスタンダード言語と言えます。文法が比較的シンプルで学びやすく、ネットワーク操作に特化した強力なライブラリ(
netmiko
,NAPALM
,Scrapli
など)が多数存在します。Ansibleだけでは難しい複雑な処理や、他のシステムとの連携を実現する際に活躍します。[アフィリエイト候補: Python入門書]
- Python: ネットワーク自動化におけるデファクトスタンダード言語と言えます。文法が比較的シンプルで学びやすく、ネットワーク操作に特化した強力なライブラリ(
- API (Application Programming Interface) とデータモデル:
- NETCONF/YANG: IETFによって標準化された、ネットワーク機器の設定や状態取得のためのプロトコル(NETCONF)とデータ構造定義言語(YANG)です。XML形式で構造化されたデータをやり取りするため、CLIよりも信頼性が高い操作が可能です。
- RESTCONF: NETCONFの機能を、Webで広く使われるRESTful API(HTTP/HTTPS, JSON/XML)で利用可能にしたものです。Web開発者には馴染みやすいインターフェースです。
- その他 (gNMI, ベンダーAPIなど): ストリーミングテレメトリに適したgNMIや、各ネットワーク機器ベンダーが提供する独自のAPIも存在します。
- CLI自動化 (従来型アプローチ):
- APIが使えない古い機器や、特定のCLI操作が必要な場合に、SSH接続を通じてコマンドを自動実行する手法です。Pythonの
Paramiko
ライブラリや、古くからあるExpect
などが使われます。ただし、不安定になりやすいため、APIが使える場合はそちらを優先すべきです。
- APIが使えない古い機器や、特定のCLI操作が必要な場合に、SSH接続を通じてコマンドを自動実行する手法です。Pythonの
これらの技術要素を理解し、適材適所で使い分けることが、効果的なネットワーク自動化の鍵となります。
今回のまとめと次回予告
今回は、ネットワーク自動化がなぜ重要なのか、そしてどのような段階を経て導入を進めるのか、さらに自動化を実現するための主要な技術要素について概観しました。
- 自動化の必要性: 運用負荷軽減、ヒューマンエラー削減、迅速性向上、セキュリティ強化、コスト削減
- 自動化のレベル: 手動 → スクリプト → 構成管理ツール → API活用 → IBN
- 主要技術: Ansible, Python, API(NETCONF/RESTCONF), CLI自動化
次回、【第2回】では、今回紹介した技術要素の中から、特に人気の高い構成管理ツール「Ansible」に焦点を当て、その基本的な使い方から、実際のネットワーク機器を操作するPlaybookの書き方まで、具体的な手順を解説していきます。
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